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2010.02.09 Tuesday
ある夜の出来事
今、俺の住んでいるレオパレスの間取りがどうなっているかというと、玄関を開けるでしょ、すると左手と正面に短い廊下があるのね。
左手の廊下はすぐ突き当たりになってて、洗濯機が置いてあるんだ。その突き当たりの左手がトイレ。洋式便器でウォシュレットが装備されています。トイレの向かいがお風呂になっててちょっと狭いけど、一人暮らしなら不足はないよね。 さて、玄関に戻るよ。正面の廊下を三歩ほど行くとキッチンがあります。そこには一見IHと見せかけた電熱ヒーターがあって、まあパスタ茹でるくらいならこれで十分なんだけど、料理でもしようと思うと、とても難儀します。だってまな板置く場所もないんだもの。 そうそう、キッチンの手前に冷蔵庫がある事を書いとかないとね。料理しないし、お酒も飲まないから、コカコーラぐらいしか入ってないんだけどさ。ちなみに今は肉まんが入ってるよ。冷蔵庫の上に乗っかってる電子レンジで温めて食べるんだ。小腹が空いた時にチンッとね、やるんだけど、取り出さないでおいておくと、ピーピーうるさいんだ。おかげで暖め直すなんて事もないんだけどさ。肉まんくらいでそんなに騒がないでほしいよね。 そしてキッチンを境にドアがあります。その奥が俺の部屋。まあ少なくとも八畳くらいはあってけっこう快適です。ところでドアを開けて中に入るとすぐ右手の壁に縦長で全身がすっかり映せるくらいの姿見が掛けてある。貼付けてあるのかな、どっちでもいいや。 その姿見の斜向かいにテーブルがあって、そのテーブルの上にiMacを置いています。机の上には他にガラスの灰皿とか、コーラのペットボトルとか、レオネットの接続ルーターがあって、インターネットにはこれで接続しています。 ところでさ、さっきから何か背後がスースーするんだけど、すきま風かな。玄関は閉めてちゃんと鍵を掛けてあるんだけどなって、おい!何かがいる。後ろの鏡にうつってる。 俺は背後の姿見に目を凝らした。そこに、はっきりと少年の姿が映っていた。その少年は緋色の裏地をしたエメラルドグリーンの、丈の長いマントを羽織り、中に白のつなぎを着ていた。ネズミ色の長靴みたいなブーツを履いて、フェンシングで使うようなサーベルを床に突き刺して立っていた。金色でぼさぼさの髪の毛に、幅の広い金のベルトを締めていて、それが小さな王子である事が、俺は一目で分かった。 「ごめんなさい。邪魔するつもりじゃなかったんだ。何か大事な事をしてたんでしょう?僕にかまわず続けて下さい」 「そこで、なにをしてる?」 「なにって、おじさんの事をみていただけだよ」 「わかった。じゃあどうやって入った?」 「入ってきたのはおじさんじゃないか」 「そうだ。君は、どうやって中にはいったんだ?」 「おじさんだって中に入れるのに、おかしな事をきくんだなあ!」 予想通りだ。きわめて予想通りだ。まるで会話になっていない。 「これはいったいなんていう楽器?」 「楽器じゃないよ。これ、文字を書けるんだ。パソコンさ。iMacだよ」 「鉛筆もなしに文字を書けるの?かわってるなあ!」 「っていうか君、おじさんって言ったね」 「だって、名前知らなかったんだもの」 そうじゃない。そうじゃないんだ。赤の他人から生まれてはじめておじさんって言われたこのもっとも有り得べき状況の意味を、君はちっとも理解していない。しかし、そんな事を小さな王子に言ったからといって、いったいに何になるというのだろう。 「だれかにお別れの手紙を書いていたの?」 「そんなんじゃないよ、ただの日記だ」 「悲しい事があったんだね」 「わざわざ書いて残すほど悲しい事なんてないさ」 「でも、とってもつらそうな顔をしていたよ」 「俺がか?」 「あたりまえじゃない。他に誰がいるのさ」 「そんなに、酷い顔してたのか?」 「自分の知らない顔を作れるなんて、おじさんやっぱりかわってるなあ!」 「かわってやしないよ。大人になればみんなそうなる」 「顔が自分勝手にかわるなんて、おとなって変だね」 「そうかもしれない」 そうはいってみたが、小さな王子の言う事の方が正しいような気がしてきた。俺は、自分で自分の顔を知らないふりをしているだけなのかもしれない。 「どんな事を書くつもりだったの?」 「いや、それはもういいよ」 「聞かせてよ、お願いします」 「話したって、君にはちっともわからない事さ」 「そんなの話してみないとわからないじゃない」 小さな王子にそういわれて、とりあえず話す事にした。仕事を辞めたい事。女の子との出会いがない事。仕方がなく交際している女の事。そして、このまま続けていっていいものかどうか悩んでいる事。 「じゃあ、別れればいいじゃない。なんだ、ちっとも難しい話じゃないや」 「そうもいかないんだ」 「その人の事が好きなの?」 「いや。断じて」 「その人といると何かいい事が有るの?」 「特別いい事があるわけじゃない」 「じゃあどうしてさ?」 「どうしてもだ」 「それじゃわからないよ」 「だから言っただろ。大人にしかわからない悩みってものが有るんだよ」 「子供にわからない事が大人にはわかるの?」 「そういう事だ」 「そんなの変だよ。だったらみんないつまでたっても子供のままじゃないか」 俺は予想もしなかった反論にしばらく言葉を失った。子供が大人になる過程で、わからない事がわかるようになるとはどういう事なのか。 「たとえば、君はトイレに行くだろ」 「もちろんさ」 「小便をするだろ」 「するにきまってるじゃない」 「その小便がでるところのものには、小便以外の使い方って言うのが有ってだな」 「何に使うの?」 「まあ、最後まで聞け。それは年を取ると成長して全く別の使い道が出来るんだ。それが大人になるって事なんだ。そうなってしまった時の事は子供にはわからないだろう?」 「うん、わからない」 「そういうことが大人にはたくさん有るんだよ」 「そうなった時の事はわからないけど、そういう事が有るのはわかったよ」 「そんなのはわかったうちには入らないんだよ」 「どうしてさ」 「そうなってしまった事より、そうなってしまった時の気持ちの方が、もっとずっと大事な事だからだ」 「じゃあ、その気持ちを話してよ」 俺は小さな王子を甘く見ていた。いや、子供全般を見くびっていたと言ってもいい。俺こそまさに、大人になればわかる、そういう風に言われて、何かとてつもなく理不尽な気持ちを抱き続けてきたのではなかったろうか。大人になるというのは、わからない事がわかるようになる事じゃなくて、とても些細な事で、もっと大事な事が追いやられていくという事なのではないか。いや、少なくとも俺はそんな風に年を取るようになってしまったのかもしれない。俺はもう一度心を正して、小さな王子と向き合った。そして、とても書き留めてはおけないくらいたくさんの事を夜が開けるまで語り合った。 コメント
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