CALENDAR
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30      
<< June 2019 >>
SPONSORED LINKS
SELECTED ENTRIES
RECENT COMMENTS
RECENT TRACKBACK
CATEGORIES
ARCHIVES
ついった
MOBILE
qrcode
LINKS
PROFILE
OTHERS

最近の昨日

今日のことは明日書くとして
<< ポチョムキンな一日 | main | 連休の宿題 >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - | pookmark |
ひとこま練習帳、第七節
 マルソ君があっけにとられていると、その方は話を続けた。

「世の中には、どんな縁で結びついたのか、余人は理解の出来ない男女の仲というものがあります」

 それはこんな話であった。

 夜空の星に、天の川で隔てられた二つの星がある。日本では織姫と牽牛星として知られるベガとアルタイルである。遥かむかしギリシャでは、この二つの星は元来、死すべき人間の身であったという。恋人同士であった二人の仲を引き裂いたゼウスが、その償いに二人を星に変えて不死の命をお与えになった。ところが、ゼウスの正妻で嫉妬深い女神のヘラは、そのいきさつを知るや、二つの星の間に幅広い河を渡して、互いに見つける事さえ出来なくしてしまった。悲しむ二つの星を哀れに思ったゼウスが、星々の願いを叶えて言うには「おまえたちは元はと言えば死すべき身、再びもとの姿に変えても良いが、もし再会を果たせねば、二度と天の栄光にも浴せなくなる。その事をしかと心にとどめておくように」

 時代はさらに下って紀元前三百年の前半。テーバイの地の名家の下にクラテスという名の男の子が生まれた。やがて彼が成人する頃には、一切の家財を受け継ぎ、独り豊かな暮らしを送っていた。しかし、何によってかクラテスの心は満たされず、虚しく月日を数えていた。

 その頃、キュニコス派の哲学者で毒舌家のディオゲネスがテーバイの地を訪れた。彼の街頭演説に感銘を受けたクラテスは彼の弟子になる事を願い出た。それを聞いて、ディオゲネスが嘲って言うには「これはこれはテーバイで知らぬものなきクラテス君。嫁探しはあきらめて、今度は哲学でも身につけようと言うのかね。確かに君の容姿では、恋人よりも哲学の方がおあつらえ向きだが、いかんせん君が所持する金銭や土地ほど、真理とほど遠いものはないからな。それらを海に投げ捨てるか、さもなければ娼婦らのところにでもやって、例の嫁探しとやらを根気よく続けてみる事だな」

 町中の笑い者されたクラテスは、その場から逃げるように去っていった。それでもなお、哲学者の生き方がクラテスの頭を離れる事はなかった。とうとう、クラテスは縁者からの反対を押し切って、自分の土地財産の一切を銀貨に換え、それらを市民たちに分け与えた。さすがのディオゲネスも今度ばかりは肯んぜざるを得なくなった。こうしてクラテスは、その師にも劣らぬほどの哲学者として名を馳せ、男盛りに達する頃には、何人かの門弟を持つほどになった。

 そんなクラテスの弟子の一人にメトロクレスがいた。彼にはまた、ヒッパルキアという妹がいた。歳の頃はクラテスより十以上も若く、容姿の優れた娘であった。その娘が、どういう訳かクラテスの話にも暮らしぶりにもすっかり惚れ込んでしまった。いい寄る男の財産にも、家柄の良さにも、美しさにも目を向けようとはしないで、ただクラテスだけが彼女のすべてであった。また、彼女はクラテスと結婚させてもらえないのなら、自殺すると言って両親を脅してさえいた。

 当時の哲学者の暮らしとは、夏には毛の厚い外套を羽織り、冬にはぼろをまとうようなものだったので、彼女の両親はクラテス本人に彼女を説得するように願い出た。若い女が哲学者の暮らしなど到底出来るはずのない事を、誰よりもよく理解していたクラテスは、彼女の説得のために出来る限りの事を行ったが、それでもヒッパルキアを説得する事はかなわなかった。とうとう、クラテスは彼女の目の前で、自分のまとっている衣服をすべて脱ぎ捨ててこう言った。

「ほら、これがあなたの花婿だ。そして財産はここにあるだけだ。さあ、これらのことをよく見て、心を決めなさい。それにまた、あなたが私と同じ仕事にたずさわらない限り、私の配偶者にはなれないだろうから」

 するとヒッパルキアは、そんな場合に女が見せるような狼狽ぶりを示すどころか、反対に自分の衣服をたくし上げてクラテスに向かって言うには「そしてこれがあなたの花嫁なのです、クラテスさん。今後、私が機織りに費やすはずだった時間をあなたと共に教養のためにつかったとしても、私が自分について間違った考えをしているという風にはおっしゃらないでしょうね」

 このようにしてヒッパルキアはクラテスを夫に選び、同じ衣服をまとって、夫と一緒に歩き回ったし、人前で公然と夫と交わったり、宴席にも共に出かけたりしたのであった。

 マルソ君は、この話の結末にすっかり度肝を抜かれてしまった。その方は最後にこう付け加えた。

「ヒッパルキアとクラテスの歳の差は十五年。ちょうど、ベガとアルタイルの間を光が移動する時間に等しいのです」
| 昨日の日記 | 00:27 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
スポンサーサイト
| - | 00:27 | - | - | pookmark |









http://marceau.jugem.jp/trackback/273