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2010.02.14 Sunday
天才!
バイオリンを製作する工房に弟子入りするための実技試験に、四角い発泡スチロールから球体を削りだす、というものがあるのを読んだ事が有る。
どうやって削りだすのかは知らない。 コンパスとか、ヤスリとかカッターナイフとか、その場に用意された簡単な道具だけを使って頭と感覚で削りだして、その知性や感性の素質を見るのだろうか。あるいは難しい計算式を使うとか、特殊な技巧とかがあって、それを正確に適用出来る技術や繊細さをはかるのだろうか。 ファーブル昆虫記の最初の巻にスカラベ・サクレという昆虫が登場する。日本名を聖センチコガネという。いわゆるふんころがしである。家畜の糞を切り取って丸め、後ろ足で転がしながら後退してすすむ虫である。 ファーブル先生の30年にも及ぶ観察の記録によれば、このスカラベが切り取った糞を丸める時の方法は、まず鋸の刃がついたような前あしで糞を適当な大きさに切り取る。その後、へらのように平たくなっているその前あしを糞に押し当てて、丸めるのだそうだ。転がして丸くするのではないのである。転がす時には、既に完全な球形に仕上がっているという。なんと! ファーブル先生の実験によると、さなぎから成虫になって、外界に出たスカラベは、しばらく太陽をあびるようにじっとした後、早速糞の玉をつくる仕事に取りかかる。そして、練習することも失敗して学ぶようなこともなく、はじめから完全な球形を作りだすのである。 イギリス経験論の哲学者ロックは、人間の観念はタブララサ、つまり白紙の状態で始まると述べている。 オランダの哲学者デカルトは、人間には生得観念、つまり生まれもって備わっている観念が有ると説いている。 このスカラベの実験は、後者を支持する事実のように見える。 だからといって、このスカラベという昆虫に、生まれた時から球体という観念が備わっていると結論するのは早計というものであろう。進化論者なら自然淘汰ということで説明するかもしれないし、自然界の多様な物理法則があって、スカラベが自分の本能に従ってがむしゃらに行動した結果、それがたまたま完全な玉だっただけかもしれないのである。 それでも不思議な事が起っている事に変わりはない。どっちにしろ、不思議な事の不思議的なものが、どのように分布しているかの違いに過ぎない。不思議の不思議性はどこまで言っても不思議のままなのではないか。 生涯を虫の観察に捧げたファーブル先生が、その仕事の終わりに書いた序文にはこう述べられている。 「知性を持ち出して昆虫の行う多くの行為を説明出来ると信じた進化論は、その主張を少しも証明したとは思えない。本能の領域は我々のあらゆる学説が見逃している法則によって支配されているのだ」
2010.02.09 Tuesday
ある夜の出来事
今、俺の住んでいるレオパレスの間取りがどうなっているかというと、玄関を開けるでしょ、すると左手と正面に短い廊下があるのね。
左手の廊下はすぐ突き当たりになってて、洗濯機が置いてあるんだ。その突き当たりの左手がトイレ。洋式便器でウォシュレットが装備されています。トイレの向かいがお風呂になっててちょっと狭いけど、一人暮らしなら不足はないよね。 さて、玄関に戻るよ。正面の廊下を三歩ほど行くとキッチンがあります。そこには一見IHと見せかけた電熱ヒーターがあって、まあパスタ茹でるくらいならこれで十分なんだけど、料理でもしようと思うと、とても難儀します。だってまな板置く場所もないんだもの。 そうそう、キッチンの手前に冷蔵庫がある事を書いとかないとね。料理しないし、お酒も飲まないから、コカコーラぐらいしか入ってないんだけどさ。ちなみに今は肉まんが入ってるよ。冷蔵庫の上に乗っかってる電子レンジで温めて食べるんだ。小腹が空いた時にチンッとね、やるんだけど、取り出さないでおいておくと、ピーピーうるさいんだ。おかげで暖め直すなんて事もないんだけどさ。肉まんくらいでそんなに騒がないでほしいよね。 そしてキッチンを境にドアがあります。その奥が俺の部屋。まあ少なくとも八畳くらいはあってけっこう快適です。ところでドアを開けて中に入るとすぐ右手の壁に縦長で全身がすっかり映せるくらいの姿見が掛けてある。貼付けてあるのかな、どっちでもいいや。 その姿見の斜向かいにテーブルがあって、そのテーブルの上にiMacを置いています。机の上には他にガラスの灰皿とか、コーラのペットボトルとか、レオネットの接続ルーターがあって、インターネットにはこれで接続しています。 ところでさ、さっきから何か背後がスースーするんだけど、すきま風かな。玄関は閉めてちゃんと鍵を掛けてあるんだけどなって、おい!何かがいる。後ろの鏡にうつってる。 俺は背後の姿見に目を凝らした。そこに、はっきりと少年の姿が映っていた。その少年は緋色の裏地をしたエメラルドグリーンの、丈の長いマントを羽織り、中に白のつなぎを着ていた。ネズミ色の長靴みたいなブーツを履いて、フェンシングで使うようなサーベルを床に突き刺して立っていた。金色でぼさぼさの髪の毛に、幅の広い金のベルトを締めていて、それが小さな王子である事が、俺は一目で分かった。 「ごめんなさい。邪魔するつもりじゃなかったんだ。何か大事な事をしてたんでしょう?僕にかまわず続けて下さい」 「そこで、なにをしてる?」 「なにって、おじさんの事をみていただけだよ」 「わかった。じゃあどうやって入った?」 「入ってきたのはおじさんじゃないか」 「そうだ。君は、どうやって中にはいったんだ?」 「おじさんだって中に入れるのに、おかしな事をきくんだなあ!」 予想通りだ。きわめて予想通りだ。まるで会話になっていない。 「これはいったいなんていう楽器?」 「楽器じゃないよ。これ、文字を書けるんだ。パソコンさ。iMacだよ」 「鉛筆もなしに文字を書けるの?かわってるなあ!」 「っていうか君、おじさんって言ったね」 「だって、名前知らなかったんだもの」 そうじゃない。そうじゃないんだ。赤の他人から生まれてはじめておじさんって言われたこのもっとも有り得べき状況の意味を、君はちっとも理解していない。しかし、そんな事を小さな王子に言ったからといって、いったいに何になるというのだろう。 「だれかにお別れの手紙を書いていたの?」 「そんなんじゃないよ、ただの日記だ」 「悲しい事があったんだね」 「わざわざ書いて残すほど悲しい事なんてないさ」 「でも、とってもつらそうな顔をしていたよ」 「俺がか?」 「あたりまえじゃない。他に誰がいるのさ」 「そんなに、酷い顔してたのか?」 「自分の知らない顔を作れるなんて、おじさんやっぱりかわってるなあ!」 「かわってやしないよ。大人になればみんなそうなる」 「顔が自分勝手にかわるなんて、おとなって変だね」 「そうかもしれない」 そうはいってみたが、小さな王子の言う事の方が正しいような気がしてきた。俺は、自分で自分の顔を知らないふりをしているだけなのかもしれない。 「どんな事を書くつもりだったの?」 「いや、それはもういいよ」 「聞かせてよ、お願いします」 「話したって、君にはちっともわからない事さ」 「そんなの話してみないとわからないじゃない」 小さな王子にそういわれて、とりあえず話す事にした。仕事を辞めたい事。女の子との出会いがない事。仕方がなく交際している女の事。そして、このまま続けていっていいものかどうか悩んでいる事。 「じゃあ、別れればいいじゃない。なんだ、ちっとも難しい話じゃないや」 「そうもいかないんだ」 「その人の事が好きなの?」 「いや。断じて」 「その人といると何かいい事が有るの?」 「特別いい事があるわけじゃない」 「じゃあどうしてさ?」 「どうしてもだ」 「それじゃわからないよ」 「だから言っただろ。大人にしかわからない悩みってものが有るんだよ」 「子供にわからない事が大人にはわかるの?」 「そういう事だ」 「そんなの変だよ。だったらみんないつまでたっても子供のままじゃないか」 俺は予想もしなかった反論にしばらく言葉を失った。子供が大人になる過程で、わからない事がわかるようになるとはどういう事なのか。 「たとえば、君はトイレに行くだろ」 「もちろんさ」 「小便をするだろ」 「するにきまってるじゃない」 「その小便がでるところのものには、小便以外の使い方って言うのが有ってだな」 「何に使うの?」 「まあ、最後まで聞け。それは年を取ると成長して全く別の使い道が出来るんだ。それが大人になるって事なんだ。そうなってしまった時の事は子供にはわからないだろう?」 「うん、わからない」 「そういうことが大人にはたくさん有るんだよ」 「そうなった時の事はわからないけど、そういう事が有るのはわかったよ」 「そんなのはわかったうちには入らないんだよ」 「どうしてさ」 「そうなってしまった事より、そうなってしまった時の気持ちの方が、もっとずっと大事な事だからだ」 「じゃあ、その気持ちを話してよ」 俺は小さな王子を甘く見ていた。いや、子供全般を見くびっていたと言ってもいい。俺こそまさに、大人になればわかる、そういう風に言われて、何かとてつもなく理不尽な気持ちを抱き続けてきたのではなかったろうか。大人になるというのは、わからない事がわかるようになる事じゃなくて、とても些細な事で、もっと大事な事が追いやられていくという事なのではないか。いや、少なくとも俺はそんな風に年を取るようになってしまったのかもしれない。俺はもう一度心を正して、小さな王子と向き合った。そして、とても書き留めてはおけないくらいたくさんの事を夜が開けるまで語り合った。 2010.02.05 Friday
いきなりクライマックス
MC練習帳…面白いじゃないか。
俺も練習しよ。 プロポーズ練習帳 じゃあ言わせてもらうけど。 もし君が海で溺れたら、ノーチラス号に乗って地上に別れを告げろとでも言うのか? もし君が砂漠で倒れたら、ラクダに乗って小さな王子を探しにいけとでも? じゃあ君が雪山で遭難したら、シャツ一枚で南極へ渡ろうか? 冗談じゃない。頼むからそばにいてくれ。 わすれよう。 本を読んでも、映画を観ても、対岸の火事って気がするぜ。 ぼちぼちプロットでも書いてみるか。 もういきなりクライマックスのやつがいいな。 公序良俗を乱した罪で死刑を宣告されるところから始まるってのはどうだろうか。 いやいや、世界の転覆をもくろむ悪の権化との決戦から始めるのはどうだ。 ドラクエで言うとレベル40くらいから始まるのな。 それも現代の話で。 世界系のラストシーンを冒頭に持ってきてだな。 悪を倒します。そして世界に平和が訪れました。 それで、主人公の俺は故郷へ帰るんだが、高速道路で渋滞に捕まって、車を降りて非常階段から脱出するといつの間にやらパラレルワールドって馬鹿。 ほんとはまじめに考えてます。っていうかまじめに考えようと思ってます。 アンダルシアに憧れて〜煙草くわえて考えよう。 2010.02.01 Monday
アリスとモモとワンダーランド
うわ、はずっ!
冗談です。まあ、いいんじゃないか。 俺が高校生の時に書いたラブソングは酷いぞ。なにしろ、ドリカムと詩人の血をお手本にして書いた詞だからな。ちなみにさびはこんな感じ。 神サマー お遊び 夢中で 困ります! 神サマー お願い お仕事 シテ!シテ! 間違えた。おちゃめ神物語コロコロポロンの主題歌だった。 今日はだな、いまさらながら、『アバター』について一言書いておこうかと。 っていうか、おもしろいか、これ。新宿ピカデリーでは朝から満席で3Dでの鑑賞には至らなかった。その分を割り増ししても、ダメだ。 何がダメか。海藻まみれのシガニーウィーバーも笑えなかったが、それ以上にシナリオがダメだ。 科学者の兄のDNAと同じだからと、交通事故(か何か)で死んだ兄の代わりに弟が呼ばれる。そこは許すわ。DNAの事よく知らないと思って馬鹿にして、なんて言わない。 しかし、その弟がクラゲみたないな樹の精だか、森の精だかに選ばれるのはなんでなのか。っていうか、選ばれた時点で俺はダメ。 ナウシカのぱくりとか、そんなケチな事言わないどころか、こういう大事なところを真似しないでどうすんのかと。ナウシカもパズーもマーティもアナロックス教授も選ばれた訳じゃないのだ。と思っている。 まあ、こういうのがありがたがられているという事は、俺もまだまだ安泰だなと。ちいせえよ、俺は。 それでは、次のニュース。 巷ではアバター鬱症候群なんかがまことしやかに囁かれているようですが、俺はゼルダの伝説鬱症候群である。 今度のゼルダの伝説『大地の汽笛』のゼルダ姫が非常にいい。 キマロキという悪者に体を奪われて幽霊みたいになって、守護天使の様にリンクにお供するんだけど、お姫様なので、とても丁寧な言葉でいろいろと指図してくるのである。 あと、神殿を護衛しているファントムという不死身の敵がいるんだが、ある条件を満たすと、ゼルダ姫を使ってファントムにのりうつる事が出来るようになる。それがまたいい。 不死身だから、火の海をリンクを担いで渡ったり、敵の攻撃の盾になったり、敵を挟み撃ちしてやっつけたりするんだが、これがとてもとてもけなげなのである。 ゲームとはいえ、そんな風に旅を続けていると、ゼルダ姫の前で俺は気持ちのいいくらいイエスマンになるのであった。 ゲームの中で俺は、なんて素朴でひたむきで頼りがいのあるいい少年なんだろうと。 会社なんて辞めてしまいたい。ああつらいつらい。月曜日なんてなくなればいいのに。 なんて言う事を受け手が感じるとき、その作品は成功しているのか、失敗しているのか。 もちろん、成功しているに決まってるだろうが! そろそろ、前向きに現実にうんざりしてもいい頃合いじゃないか。 |