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ポチョムキンな一日
 マルソ君の昨日を回想でご覧ください。

 午前零時頃、レンタルソフトを持ってツタヤに向かうマルソ。
 午前1時頃、レンタルソフトを持ってツタヤから帰るマルソ。
 午前3時頃、『ラブリーボーン』のラストシーンに鼻の辺りがつうんとなるマルソ。
 午前3時半頃、慌ててテレビのチューナーをセットするマルソ。
 午前4時過ぎ、ハーフタイムにベランダで煙草を吹かすマルソ。
 午前5時前頃、主審の判定に納得がいかないマルソ。
 午前6時前、五年ぐらい老けた顔で煙草を吹かすマルソ。
 午前6時頃、携帯の目覚ましを9時にするか8時半にするか決めあぐねているマルソ。
 午前8時、死人のように動かないマルソ。
 午前9時、携帯のアラームで目が覚めるマルソ。
 午前9時過ぎ、30分の遅刻にするか1時間の遅刻にするか決めあぐねているマルソ。
 午前9時半、シャワーを流しながら浴槽に腰をかけ足の裏を洗うマルソ。
 午前10時、木場駅で無慈悲にもエレベーターの扉を閉めてやるマルソ。
 午前10時15分、大江戸線の車内で文庫本を読むマルソ。同じページを行ったり来たりする。
 午前10時半、ビッグコーヒーを買って公園のベンチに座るマルソ。
 午前10時45分、会社のタイムカードを入力するマルソ。

 た・だ・の・オ・ヤ・ジ・じ・ゃ・な・い・か!
| 昨日の日記 | 22:44 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
ひとこま練習帳、第六節
「古風な感じだけど、趣のある詞だね」

 その方が歌い終わると、マルソ君は感想を述べた。

「飯にしようか」

 マルソ君はピアノのふたを閉じて立ち上がった。

「今日は俺がごちそうするよ」

 マルソ君はキッチンに立ち、手鍋に水を張り火にかけた。湯が沸くまでの間に、マルソ君は冷蔵庫からキュウリを取り出した。

マルソの三分クッキング
「ロコモコ風ビビンバ」
 材料(二人分)
  キュウリ一本
  大根(六分の一)
  人参(二分の一本)
  大豆もやし一袋
  たまご二個
  合挽ミンチ(百グラム)
  ご飯(どんぶり二杯)
  キムチ適量
 調味料
  ニンニクとショウガ(すりおろしたものを少量)
  ごま油少々
  コチュジャン小さじ二杯×2

1.キュウリは斜に輪切りして、少しずつずらして重ね、端から幅2ミリ程度に千切りにしてゆきます。

2.お湯が沸いたら、大豆のもやしをさっと茹でて、冷水に晒します。

3.フライパンを温めてから、合挽ミンチを弱火でじっくり炒めます。調味料はすりおろしたニンニクとショウガを少々。仕上げにごま油で香りをつけます。

4.ミンチが炒め終わったら、残った油を使って目玉焼きを作ります。

5.どんぶりにご飯を盛って、その上に大根と人参の酢漬けを適量のせ、キュウリの千切り、いためたミンチをのせます。

☆大根と人参の酢漬けは、千切りにした大根と人参に酢と砂糖をくわえてタッパーに漬け、冷蔵庫にしまっておいたものを使用します。

6.市販のキムチを好みの量だけ添えて、半熟に焼き上がった目玉焼きをどんぶりの上によそいます。最後に市販のコチュジャン(小さじ二杯)をのせれば、マルソ流ロコモコ風ビビンバの出来上がり!

 マルソ君はどんぶりを両手に持ち、満を持してリビングに向かった。配膳が済むと、「いただきます」と言って箸に手を付けた。

「こうして、目玉焼きをつぶしながらかき混ぜて食べるんだ」

 マルソ君は箸でどんぶりの中を乱暴にかきまわしながら食べ方を説明した。その方は、要領を得たらしく、その都度口に運ぶ分だけ箸で混ぜながら食べ始めた。

「美味しい」
「そりゃよかった」

 マルソ君は、すこし居心地が悪くなって呟くように言った。

「茶番じみてるよな」
「なにがですか」
「なんか言わせてるみたいでさ」

 マルソ君がそう言うと、その方は言った。

「自意識過剰じゃないですか。思った事を言っただけです」
「ああ、そっか」

 その方は、どんぶりの中身をきれいに食べ終えると話し始めた。

「先日は七夕でしたね」
「そうか七夕なんてものがあった事さえすっかり忘れてたよ」

 マルソ君は会社勤めしてからというもの、七夕という夏の風物詩からすっかり遠ざかっていた。

「生まれ変わりはご存知ですか」

 マルソ君はしばらく考えてから答えていった。

「人が背負っている業に従って、来世の姿が決められるっていうやつなら聞いた事があるけど」

「それとは少し違います。宗教観や道徳観が入り込む前の、もっと根源的な感覚です」

 マルソ君があっけにとられていると、その方は話を続けた。

「世の中には、どんな縁で結びついたのか、余人は理解の出来ない男女の仲というものがあります」

 それはこんな話であった。
| 昨日の日記 | 21:31 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
我らが日々の糧
 マルソ君は考えた。

「生まれてしまったものをなかった事にできるだろうか」

 一つ補足しておくと、マルソ君が主題にしているのは意識という精神現象の事である。マルソ君がいつになく哲学的な気分に浸っているのは、昨日観た『いのちの食べ方』の影響なのである。

「人間の食生活が無数の殺生によって成り立っているなんて事、いまさら教えられるまでもないや」

 そんな風に思いながら観ていたマルソ君は、それでも普段から、雨が降っただけで大量に洗い流されてしまうであろう小さな虫を眺めながら考えていた、いのちの尊さという大きな謎について、思い返さずにはいられないのであった。

 たまごから孵ったひよこが、機械に乱暴に扱われながら鶏肉になっていく過程を観ながら、マルソ君は考える。

「これを観る限り、いのちそのものはどうやら尊いものではなさそうだ」

 さらに、一撃必殺のキラースティックを脳天に近づけられた牛が身悶えして避けようとしてるシーンから、動物にも意識と呼べるものが備わっている事が、マルソ君には明らかなように思われた。

「意識の中でも、とりわけ精神がより尊いとされているということか」

 マルソ君は、人間以外の動物の意識と、人の意識の違いについて考えてみた。しかし、どうも結論のようなものは導けそうになかった。

「言語を話すかどうか、だろうか」

 しかし、この考えもマルソ君はどこかうさんくささを感じてしまう。マルソ君はその腑に落ちなさについて整理してみる事にした。

「言葉にのせる事で、人の考えや感情があたかも物質的な確かさで存在しているように見えるけれど、そいつの本当の姿は、牛や豚の意識とどれほど違うものだと言えるだろうか。よしんば違ったとして、どっちが尊いなんて誰の権威で言ってるんだろうか」

 こんなことを言うからといって、マルソ君がすぐにでも肉を断つかというと、そんな事はない。マルソ君は食べ物の中で肉が一番好きなのであり、その事は当分変わる事がないに違いない。

「たぶん、みんなこんな精肉の大量生産システムは、いい事じゃないと思いながら、それでも経済の原理に突き動かされて、仕方なしにやってるんだろうな。だって、みんな自分のいのちが最も尊いものなんだから」

 そんな結論に至ると、マルソ君はなんだか少しだけ悲しくなった。そしてマルソ君は考えた。

「俺が肉より滋養のある美味しいアイスクリームを開発したら、いち抜けたと言ってこのシステムをひっくり返す人が出てくるだろうか。ベジタリアンは無理でも、アイスクリミリアンなら悪くないじゃないか!」

 マルソ君は、最近チョコレートが新しくなったPinoにはまっているのである。

「そうしたら、俺はそのアイスをManaと名付けよう」

 マルソ君には、いまひとつ真摯さや誠実さが欠けている気がしてならない。
| 昨日の日記 | 23:30 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
玄関開けたら二分でツタヤ
 マルソ君の心は軽かった。今日の打ち合わせで基本設計がフィックスしたのである。

 さようなら
 昨日の俺がへたれでも
 ウィークエンドイズマイン哉 マルソ

 マルソ君は家に帰ると、早速ツタヤに向かった。いつもより時間をかけてブルーレイソフトを物色していると、『500日のサマー』が入荷しているのを見つけて即座に手に取った。これはもしやと思い、ブルーレイプレーヤーを買ってからというもの絶えていかなくなったDVDの棚に向かった。そしてマルソ君はみつけた。『ラブリーボーン』が最新作で入荷していたのである。しかもブルーレイソフトも同じ棚に置かれている。ただし、ブルーレイ版は一本しかなく、そのうえレンタル中であった。

「ま、買うという手もありだな」

 かくいうマルソ君は、その映画を劇場で二回も観ている。それでは、この映画がそれほど傑作かというと、一般的な評価から言って、名作とは言い難い作品ではあると思う。マルソ君がこの映画を贔屓している理由は二つある。一つは主演のシアーシャローナンをマルソ君がたいそう気に入ったからである。映画館ではじめて彼女の芝居を見ながらマルソ君は思った。

「こんな世界名作劇場から抜け出してきたような俳優が出てくるなんて、アメリカって国は・・・」

 こんな具合で、誰にも何の参考にもならないに違いないので、最後の理由は割愛させていただく。

 ちなみに、今日マルソ君が借りたのは以下の三本。

『500日のサマー』
『恋するベーカリー』
『いのちの食べ方』

 シネフィルとはほど遠いラインナップである。
| 昨日の日記 | 23:52 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
ピンチの時のおまじない
 マルソ君は嫌な予感がしていた。

「このまま行けば、デスマーチに突入だな」

 マルソ君が基本設計を担当している機能の仕様がまだ確定していないのである。納品日は死守したい。しかし、仕様が確定するのに早くても今週いっぱいはかかる。マルソ君はリスケしてみた。出来上がった表を見てマルソ君は愕然とした。製造に四人日。

「製造に四人日だと!よし、夜逃げしよう」

 するとマルソ君の良心が、マルソ君の耳元で冷静に諭す。

「落ち着け。いいか、4人日という事は、人の二倍頑張れば8人日くらいにはなるってことだ。さらに部下の中国人を丸め込めば、二人で16人日。大雑把に言って、五月の一人月に相当する。大丈夫、大丈夫!」

「おまえそれでも良心か!」

 マルソ君は良心に耳を貸すのを止めた。すると今度はマルソ君の誇大妄想が、マルソ君の耳元で檄を飛ばす。

「こんな小せえプロジェクトが回せなくて、世界を回せるとでも思ってるのか、え?恥を知れ、恥を!」

「おまえ、実は何にも言ってないじゃないか!」

 マルソ君は頭から誇大妄想を追い払った。すると今度は絶望にうちひしがれた心が、マルソ君の耳元で、めそめそ泣き言をもらした。

「最初からこうなる事はわかってたんだ。いわゆるスケープゴートってやつさ、君じゃなくても誰かが同じ目に遭うんだ。それが社会の仕組みだよ」

「あんたは黙ってて!」

 マルソ君は人のせいにしない事にした。すると今度はシニカルな批評精神が、マルソ君に一つの教訓を与えた。

「これでよくわかっただろう?あんたの上司がいつもどんな気持ちでいるか」

「いらんわ、そんな教訓」

 マルソ君は頭を切り替えた。

「見方を変えてみよう。もし俺がイエスキリストだったらどうするか?水を葡萄酒に変えたみたいに、仕様書をソースコードにかえる?」

 するとマルソ君の頭上に、大天使ミカエルの右手が現れて、中空に指で一つの啓示をお示しになった。

「天は自らを助くるものを助く」

「アーメン」

 マルソ君は神頼みするのを止めた。そしてマルソ君は考えた。

「とりあえず、寝よう」
| 昨日の日記 | 00:18 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
ひとこま練習帳、第五節
 マルソ君は昨日、客先の会社で月末の納品物のレビューを行った。7時間近くつづいた打ち合わせの大半は、仕様変更やら、内部仕様の改善要求やら、追加要望やらで過ぎてしまった。

 結局、レビューがすべて終わった頃には、マルソ君は相手の要望をはじめの予算内ですべて引受けることになっていた。それはマルソ君が普段から、顧客満足度を何よりも大切に考えているからではもちろんない。マルソ君は自分が作成した資料に不具合が見つかる度に、自分の準備不足に恐縮してしまい、相手の要望を引受けざるを得ない心境に追い込まれてしまったのだった。要するにマルソ君はビジネスライクな折衝が大の苦手なのである。

 積み上がったタスクとやけに重たいノートパソコンを胸に抱えて、自宅にたどり着いたマルソ君は、ほぼ日手帳に殴り書きされた暗号のような議事録を整理しているうちに、いつの間にかうとうととまどろみの中に落ちていった。短く浅い眠りのなかで、食卓にすがるラザロのように落ちぶれたマルソ君は、顔のない女を、誠の愛に生きる女のアイコンを夢に見ていた。

 目がさめて、感傷的な気分から抜け出せないでいたマルソ君は、窓辺の電子ピアノの前に座り、ピアノを弾いていた。次のコードもわからずに・・・

 もしも生まれ変われたら
 セレブもいいが
 イケメンもいい
 サッカー選手もいいし
 ミュージシャンだって捨て難い
 さりながら、さりながら
 あの子との恋をもう一度

 もしもあの頃にもどれたら
 たくさん本を読む
 ちゃんと辞書を引く
 脇目もふらずしゃかりきに
 おんなじ夢を追いかける
 さりながら、さりながら
 あの子と再び巡り会う

 パーフェクトな俺と出会い
 あの子の優しい言葉とか
 あの子の微笑みが同じなら
 俺はたまらなくなってしまう
 あの子との恋をもう一度
 あの頃の恋をもう一度

 マルソ君がふと振り向くと、今日もその方が立っていた。その方はこういった。

「変な歌」
「そうだね」

 マルソ君が苦い笑みを浮かべた時、その方は続けた。

「最後のところで全部台無しって感じです」
「それは、どういうことかな」

 マルソ君はやや挑戦的になって訊いた。

「暗いし、クドい」
「いいよ、暗くても、クドくても。それがメインテーマなんだもの」
「暗いのがですか、それともクドいのが?」
「暗いのでもクドいのでもなくて、若気の至りというか、未熟な恋の反省文というか」
「なんですか、それ」

 その方は素っ気なくそう言った。

「じゃあ、君ならどうするんだ」
「さあ、私が歌うわけじゃないし」
「なんだい、そこまで言っといて」

 マルソ君はあきれてそう呟くと、電子ピアノの電源をオフにしてふたを閉めた。そして椅子から立ち上がろうとしたが、それが出来なかった。いつの間にかその方が、マルソ君の傍ら、後ろ斜め45度の位置に立っていたのである。

「びっくりするじゃないか!」

 その方はすっと右手を伸ばした。マルソ君が反射的に肩をすくめると、その方はピアノのふたをはね開けて、スイッチを入れた。

「さっきの、もう一度やってみて下さい」

 その方はそういった。マルソ君は言われるままに出だしのコードを探りながら、電子ピアノを鳴らした。

 もしも生まれ変わったら
 セレブもいいけど
 器量がいちばん
 サッカー選手はバルセロナ
 フィドル片手にシャンゼリゼ
 さはさりながら、さりながら
 あの子との恋をもう一度

 もしも生まれ変わったら
 ローマもいいけど
 スコットランド
 円卓の騎士を取り巻きに
 花の都で引く手あまた
 さはさりながら、さりながら
 あの子との恋をもう一度

 さはさりながら、さりながら
 あの子の事は後の祭り

 さはさりながら、さりながら
 覚めてははかない夢の香り

 その方は、か細い声を震わせながら、そんな風に歌った。
| 昨日の日記 | 20:46 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
備忘録、第一歌
 ペレウスの子、アキレウスが軍勢を率いて聖都テベを攻め落とした時、アカイア勢は戦利品として、頬麗しき巫女クリュセイスを王笏を保持するアガメムノンに献上した。彼女の父でポイボス・アポロンの祭司クリュセスは、クリュセイスの返還を求めて、莫大な身代金を携えアカイアの陣営に交渉にやってくる。ホメロスの叙事詩イリアスが語られるのはここからである。

 イリアスとは舞台となる戦場トロイアの別称であり、トロイアを攻め落とすためにアカイア勢はアルゴスの地から船脚速い船団を率いてトロイアの地まで遠征してきた。ダナオイ勢、別称アカイア勢の総帥は、アトレウスの子アガメムノンであり、対するトロイアの大将はプリアモス王の子、ヘクトルである。ヘクトルにはアンドロマケという妃がいて、このアンドロマケの父が、駿足のアキレウスが攻め落とした聖都テベを治めていた。これらのことはすべて、イリアスの第一歌に歌われている。

 さて、テベより遥か西、エーゲ海に突き出た土地にクリュセという場所がある。アガメムノンに献上された巫女クリュセイスは名前からも連想されるが、このクリュセの住人である。クリュセイスの父も当然そうであろう。彼はアカイア勢との交渉の際に、彼らが無事トロイアを攻め落とせるようにと挨拶を述べている。ところで、そのクリュセイスがなぜイデ山の麓にある都テベで捕虜となったのか。そのいきさつについては、どこにも歌われていない。
| 昨日の日記 | 00:02 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
とにかく悪魔が
 マルソ君は無類の負けず嫌いだが、ずっと負け続けている。そんなマルソ君は昨日のワールドカップ日本対パラグアイ戦を観て思った。

「負けた。負け方で負けた」

 つまり、マルソ君は昨日の試合にたいへん感動したのだった。選手の涙を見て、サポーターの涙を見て、岡田監督の失言とも取られかねないインタビューを見て、なんて気持ちのいいチームなんだと思った。美しい勝利があるように、負け方にもまた美が備わることもある。

「どうせ負けるなら華麗に負けよう」

 決意を新たにした一夜であった。
| 昨日の日記 | 00:12 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
ひとこま練習帳、第四節
 それはこんな話であった。

 江戸時代も末頃のこと、この地に材木商で財産を築いた留吉という男がいた。留吉は全国から船で運んでくる木材を買いつけ、内地に売りさばいて沢山の利益を上げた。真面目で勤勉な留吉の商いは年を追うごとに大きくなっていった。しばらくして、横浜で未曾有の大火事が起った。横浜復興のため、留吉は木材をおろしに横浜に向かった。留吉が横浜に留まっていたとき、ヘボンという名のアメリカ人宣教師の知遇を得た。日本の樹木に詳しい留吉は、博物学者でもあった彼の植物採集にも同行するようになった。そして留吉はヘボンの助手を務めていた異国の娘と恋に落ちた。二人は互いに愛し合い、結婚の約束まで交わした。しかし当時、外国人の殺害事件が横浜の外人居留地を騒がせており、娘の両親は二人の結婚に猛反対だった。留吉は半ば連れ去るように、木場にある自分の屋敷まで娘を連れて帰った。娘の両親はついに観念したが、娘は次第に故郷を恋しがるようになった。娘を深く愛していた留吉は、なりふり構わず散財し、土地の一角に異国趣味の庭園を造って娘を慰めた。しかし留吉がいくら慰めても、娘の故郷を思う気持ちは日増しに強くなっていくばかりだった。業を煮やした留吉は、娘を外国式の庭園に閉じ込めたまま、母国語で話すことさえ禁じてしまった。ある日留吉は、娘が庭園で異国の男と逢瀬を重ねているという噂を耳にする。嫉妬に狂った留吉は、紀州まで木材を買いにいくと行って、庭園の中に身を潜めた。三日三晩が過ぎて、何も訪ねてくるものがないことを知ると、留吉は娘を気の毒に思うようになった。「ああ気の毒な我妻よ。異郷の地で訪れるものもなく、こんなに広く寂しい庭の中を彷徨いながら、虚しく月日を数えているのだ。こんな私を愛したばかりに」留吉があきらめて隠れ場から出ようとした時、庭園の林の奥で、娘が異国の男と生まれた国の言葉で話をしながら、親密に手を握り合っている姿を目にしてしまう。留吉は激しい怒りに駆られた。そして懐に忍ばせていた脇差しを抜いて、二人もろとも斬り殺してしまった。留吉は夜陰に乗じて庭園を飛び出すと、隅田川に脇差しを投げ捨て、三河まで馬を飛ばした。そこから江戸へ向かう廻船に乗り、自分の屋敷にとんぼ返りした留吉は、屋敷の使用人から庭園で起った惨劇を聞くや、激しく胸を掻きむしって嘆き悲しんだ。そしてその事件は、日頃過激さをましてきた攘夷派の狼藉ということで片づけられた。

 マルソ君は、食事も忘れて話に聴き入っていた。
「それから留吉はどうなったんだ」
「それから十年以上も後のこと」その方は話を続けた。

 留吉の屋敷にアメリカ領事館から使者が訪ねてきた。あの事件があって数年、娘の両親は領事館に何度も訴え続けた。しかし世は幕末の動乱の最中、今頃になって領事館から調査隊が送られてきたのだ。江戸でも有数の商人に成長し、罪の意識もすっかり消えてしまった留吉は、平然と彼らを庭園に招じいれた。事件以来打ち捨てられ、すっかり荒廃してしまった庭園から、手がかりなど見つかるはずがないと留吉は高を括っていた。そして、留吉が事件のあった林の中を案内して歩いていると、調査隊は一本の樹の前で立ち止まった。彼らは留吉の知らない言葉で互いに囁き合いながら、樹の幹を手でなでたり葉をちぎって眺めたりしている。留吉は息をのんだ。彼らが立っていた場所は、留吉が娘と男を切り捨てたまさにその場所であった。かててくわえて、そこに立っていた樹は、留吉にも全く見覚えのない樹だった。留吉は不安に駆られて樹を見上げた。すると留吉が驚いたことに、鬱蒼と茂る枝葉のところどころに、娘を斬った時の血飛沫が、赤々とこびりついていたのだ。留吉は悟った。「嗚呼、あれは異国の樹だ。この手で妻を殺めたとき、あいつのすがったあの若木が、こんなにもすくすくと成長したのだ」留吉がその樹を知らないのも無理はなかった。それは娘が故郷を偲んで南米から取り寄せた海紅豆、別名をアメリカデイゴという樹だったからだ。その後、調査隊は何の手がかりも得られずに帰って行った。それからというもの、留吉はその樹が生えている場所に祠を建て、異国の娘の霊を弔ったという。

 じっと耳をそばだてていたマルソ君は、話が終わったのを知ると、本当にあった話なのかと訪ねてみた。その方はただの作り話だと答えた。
「君が作ったの」
「何か話をするということだったので」
「なんて言うか、そんな大時代な話が出るとは思わなかった」

 マルソ君が言い終わらないうちに、その方は箸を置いた。
「じゃあ、これで失礼します。ごちそうさまでした」
 その方はそう言うと、自分の食べた食器を持って流しの方へ消えていった。

「とてもムードのある話だったよ」

 マルソ君は弁解しようとしたが、その方はそれきり戻ってこなかった。
| 昨日の日記 | 22:19 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
ひとこま練習帳、第三節
 リビングのテーブルの上に、ご飯を盛った茶碗二つとみそ汁の入った紙コップを用意した。ご飯の上にはシャケの切り身のさらに切り身がひとつずつ。みそ汁はインスタントだった。マルソ君は冷蔵庫からキムチの入った瓶を取ってくると、ふたを開けてテーブルの上に無造作に置いた。
 その方はじっとご飯の上のシャケを見詰めていた。マルソ君はいただきますと言おうとしたが、馬鹿らしくなってやめた。マルソ君がご飯を食べ始めてすぐにその方はつぶやいて言った。
「こんなのばかり食べてるんですか」
「文句言うなよ」とマルソ君がやり返すと、その方は箸でシャケの身をほんの少しほぐして口に運んだ。
「うわ、しょっぱ」
「それがいいんだ」といってマルソ君は白米を口の中に掻き込んだ。
 その方は、どこか古風な国の王様に仕える献酌人のような慎重さで口に運んだ食料を念入りに咀嚼していた。マルソ君が二膳目をついで戻ってくると、その方は言った。
「何か話して下さい」
「今度は君の晩だ」とマルソ君は反論した。
「今日は俺が作ったんだから、君が話すべきだ」
「これで?」
 その方は聞き取れないくらい小さな声でそういったまま、箸を止めてしばらく思案していた。

「すぐ隣の三ッ目通りを北に行くと最初に突き当たる大きな交差点があります。その歩道に、海紅豆の樹が一本だけ植えてあるのはご存知ですか」

 マルソ君は考えていた。確かにその樹には見覚えがある。交差点の北東の隅、北から三ッ目通りの歩道と東から永代通りの歩道が交わる一角に大きな樹が植えてある。春から夏にかけて、深い緑の枝葉がところどころ火のように赤い若葉で彩られる見応えのある樹だ。マルソ君はその樹がなんて言う名前の樹なのか、知りたいと思いながら、ずっとそのままにしていたのである。

「あれは若葉ではなくて花です」

 その方はマルソ君の思い違いを正してさらに話を続けた。それはこんな話であった。
| 昨日の日記 | 11:50 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |